第8回 研究用加速器システムについて

当社事業の柱のひとつである研究用加速器システムのメンテナンス、取り扱いがあります電子加速器のうち電子シンクトロンの応用分野として物質・生命科学研究があります。

20世紀半ば米国GE社の70MeV電子シンクロンで観測された放射光は、従来の極紫外、X線に比べ強力な光であったため、その後電子エネルギーを増大させるとともに、放射光専用の電子ストレージリング(シンクロトンで電子を蓄積)の開発が進められました。

我が国の代表例では、東京大学SOR-RING(電子エネルギー380MeV)、高エネルギー加速器研究機構フォトン・ファクトリー(電子エネルギー2.5GeV)、理化学研究所SPring-8(電子エネルギー8GeV)があります。

一方1990年前後には、放射光の産業利用のひとつとして半導体製造装置への応用も民間企業によって試みられましたが、コスト面及び技術的理由から実用化には至りませんでした。

現在世界では、放射光強度の更なる増大を目指して、以下の第3世代型高輝度の放射光専用施設(電子加速器)が、アジア・オセアニア、北米、南米、欧州で稼働、建設中です。

SP-8(SPring-8、日本)

PLS―Ⅱ(Pohang Light Source、韓国)

SSRF(Shanghai Synchrotron Radiation Facility、中国),

TPS(Taiwan Photon Source、台湾)

AS(Australian Synchrotron、オーストラリア)

APS(Advanced Photon Source、米国)

NSLS―Ⅱ(National Synchrotron Light Source II、米国)

SPEAR―Ⅲ(米国)

ALS(Advanced Light Source、米国)

SIRIUS(ブラジル)

DIAMOND(Diamond Light Source、イギリス)

ESRF(European Synchrotron Radiation Facility、フランス)

SOREIL(Synchrotron SOLEIL、フランス)

SLS(Swiss Light Source、スイス)

BESSY―Ⅱ(Electron Storage Ring BESSY II、ドイツ)

PETRA―Ⅲ(ドイツ)

ELETTRA(Elettra Synchrotron Light Source、イタリア)

MAX―Ⅳ(スウェーデン)

ALBA(スペイン)

 

具体的技術内容は、第4回コラムで紹介した「加速器ハンドブック」(日本加速器学会 編、発行元 丸善出版株式会社)の第6章 加速器の歴史 6.1.5 物質・生命科学研究への応用 及び 第7章 加速器のタイプ 7.10 放射光にまとめられていますので、関心をお持ちの方は是非参照下さい。

第7回 がん治療用加速器について

当社事業の柱のひとつである医療メンテナンス、取り扱いますがん治療用X線装置(直線加速器(リニアック)装置)、重粒子線装置は、近年がん治療における放射線治療のニーズ拡大により応用範囲が拡がり、世界中で装置設置台数が増加しています。

とりわけ弊社事業に関係の深い粒子線がん治療装置は、現在日本に以下の24施設(重粒子線6、陽子線17、重粒子・陽子線両方1)があります。

1 北海道 3

北海道大学病院陽子線治療センター

札幌禎心会病院陽子線治療センター

大野記念病院 札幌高機能放射線治療センター

2 東北 2

山形県 山形大学医学部東日本重粒子センター

福島県 南東北がん陽子線治療センター

3 関東 5

群馬県 群馬大学医学部附属病院 重粒子線医学研究センター

茨城県 筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター

千葉県 国立がん研究センター東病院

千葉県 量子科学技術研究開発機構QST病院(旧放医研病院)

神奈川県 神奈川県立がんセンター 重粒子線治療施設

4 中部 4

長野県 相澤病院 陽子線治療センター

静岡県 静岡県立静岡がんセンター

愛知県 社会医療法人明陽会 成田記念陽子線センター

愛知県 名古屋陽子線治療センター

5 北陸 1

福井県 福井県立病院 陽子線がん治療センター

6 近畿 6

京都府 京都府立医科大学 永守記念最先端がん治療研究センター

  大阪府 大阪重粒子線センター

大阪府 大阪陽子線クリニック

奈良県 高清会陽子線治療センター

兵庫県 兵庫県立粒子線医療センター

兵庫県 兵庫県立粒子線医療センター付属神戸陽子線センター

7 中国 1

岡山県 岡山大学・津山中央病院共同運用 がん陽子線治療センター

8 九州 2

佐賀県 九州国際重粒子線がん治療センター

鹿児島県 メディポリス国際陽子線治療センター

 

以上は、治療用の放射線として、重粒子(炭素イオン)、陽子を利用するものですが、

近年実用化されつつある治療技術として、中性子捕捉療法(BNCT: Boron Neutron Capture Therapy)があります。以前は、原子炉からの中性子線が用いられてきましたが、加速器から発生する中性子を利用する装置について以下の開発機関による取り組みが始まっております。

1 京都大学原子炉実験所

2 一般財団法人脳神経疾患研究所 南東北BNCT研究センター

3 国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院、

4 いばらき中性子医療研究センター、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構、

日本原子力研究開発機構、北海道大学

 

具体的技術内容は、第4回コラムで紹介した「加速器ハンドブック」(日本加速器学会 編、発行元 丸善出版株式会社)の第17章医学利用に、放射線、加速器の医学応用(診断、治療)の技術概要と最新動向がまとめられていますので、関心をお持ちの方は是非参照下さい。

第6回 セキュリティ用加速器システム … 貨物・手荷物X線検査装置について

当社事業の柱のひとつであるセキュリティ用加速器システムの主な顧客が財務省税関です。

今年2月の財務省税関報道発表によりますと、2020年に全国の税関が空港や港湾等において、不正薬物の密輸入その他の関税法違反事件を取り締まった実績は以下の通りです。

1 不正薬物

(覚醒剤、大麻、あへん、麻薬(ヘロイン、コカイン、MDMA等)、向精神薬及び指定薬物)

摘発件数 733件、押収量 約1,906kg

2 金地金

摘発件数 51件

3.知的財産侵害物品等

(商標権を侵害するマスクや著作権を侵害するDVD等の知的財産侵害物品)

摘発件数 10件

これらの摘発物品は、

1 海上コンテナ貨物

2 国際宅配貨物

3 国際郵便物

4 密輸者携帯手荷物

5 密輸者着用物

のいずれかに隠匿された例がほとんどであり、

1 コンテナ貨物大型X線検査装置(海上コンテナ貨物検査用)

2 貨物X線検査装置(国際宅配貨物、国際郵便物検査用)

3 手荷物X線検査装置(密輸者携帯手荷物検査用)

を効率的に運用することによって、摘発されております。

弊社は、これらのX線検査装置が円滑に稼働するため必要なメンテナンス業務に携わっております。

第5回 医療メンテナンスについて

当社事業の柱のひとつである医療メンテナンス、取り扱いますがん治療用X線装置(直線加速器(リニアック)装置)、重粒子線装置は、近年がん治療における放射線治療のニーズ拡大により応用範囲が拡がり、世界中で装置設置台数が増加しています。

我が国では、1000台を超える従来型の直線加速器(リニアック)装置に加えて、陽子線、重粒子線を用いた粒子線装置が30台近く導入され(1994年~)、放射線治療において重要な役割を果たしております。世界で稼働中の重粒子線装置は60台余(1990年頃~)ですので、日本は有数の重粒子線治療大国となってきています。

重粒子線装置で加速する粒子は、陽子、炭素イオン、主加速器はシンクロトロン、サイクロトロンです。世界ではシンクロトロンとサイクロトロンがほぼ同数、日本はシンクロトロンが多く、米国はサイクロトロンが多いようです。

直線加速器(リニアック)装置のX線エネルギーは通常4~18MeV、重粒子線装置の最大粒子エネルギーは230~250MeVが主流です。

当社は主にリニアック、シンクロトロンを対象としたメンテナンスサービスを行っており、当社技術者は重粒子線装置の運転・メンテナンス経験も有しております。

また、第4回コラムで紹介した「加速器ハンドブック」(日本加速器学会 編、発行元 丸善出版株式会社)の第17章医学利用には、放射線、加速器の医学応用(診断、治療)の技術概要と最新動向がまとめられていますので、関心をお持ちの方は是非参照下さい。

第4回 加速器ハンドブックについて

当社事業の柱のひとつである加速器は、1930年代に原子核物理の研究のために開発されて以来約90年、原子核物理以外にも物質科学、生命科学、工業・農業、医療、セキュリティ等様々な分野に応用されております。

その加速器、加速器科学の基礎から応用までを集大成した「加速器ハンドブック」
(日本加速器学会 編、神谷 幸秀 編集代表、596頁、発行元 丸善出版株式会社)が、
今年4月に刊行されました。

過去60年、加速器、加速器科学についてまとめられた主な書籍は、末尾リストに示す通りですが、本書の構成は、

1章 素粒子・原子核物理
2章 物質科学(放射光)
3章 物質科学(中性子・ミュオン・陽電子)
4章 核変換・未臨界炉
5章 社会・産業と加速器
6章 加速器の歴史
7章 加速器のタイプ
8章 加速器の基礎および理論
9章 加速器の要素技術
10章 加速器の関連技術
11章 粒子と電磁場との相互作用
12章 粒子と物質との相互作用
13章 材料工学
14章 物質分析
15章 加速器質量分析法(AMS)
16章 生命科学
17章 医学利用
18章 量子検出器とその応用
19章 原子力・核融合
20章 宇宙科学
21章 暮らしに役立つ加速器技術

となっており、現在の加速器に関連する分野を、基礎から応用まで、ほぼすべて網羅的かつ詳細に記述されている点が、大きな特長です。

執筆者陣も、高エネルギー加速器研究機構、理化学研究所、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発等の研究機関や大学にとどまらず、産業界(筆者含む)も含めて、従来の書籍とは桁違いの総勢200名を超えており、大著にふさわしい布陣となっております。

やや高額の図書ですが、加速器、加速器科学に関係されている研究者、技術者の方、加速器・加速器の応用に関心をお持ちの一般の方に、書店、図書館で手に取ってみて頂くことをお勧め致します。

 

(過去の加速器関連書籍)

1「加速器」
核物理学講座 第6巻 菊池正士他監修 福田信之他編
1960年5月
共立出版株式会社
219頁

2「加速器」
実験物理科学講座 28 熊谷寛夫編
1975年12月
共立出版株式会社
618頁

3「加速器とその応用」
日本物理学会編
1981年4月
丸善株式会社
392頁

4「加速器工学ハンドブック」
平尾泰男他編
2000年3月
日本原子力産業会議
379頁

5「高エネルギー加速器」
実験物理科学シリーズ 第7巻 木村嘉孝編
2008年7月
共立出版株式会社
415頁

第3回 犯罪・テロ対策技術について

当社事業の柱のひとつであるX線検査装置は、社会の安全、安心を守るための重要なセキュリティツールですが、X線検査装置以外にも、化学的手法による爆発物・危険物検知装置、核物質探知装置、違法薬物検知装置、化学剤検知システム、監視カメラを用いた人物画像解析システム、化学防護服、生物剤検知装置等々、多岐にわたるセキュリティツールがあります。

文部科学省では、「社会システム改革と研究開発の一体的推進」事業の「安全・安心な社会のための犯罪・テロ対策技術等を実用化するプログラム」のもと、平成22年度から27年度、安全・安心のための科学技術、特に犯罪・テロ対策技術等について、関係省庁が連携して実用化を目指す開発を指導、推進してきました。

本プログラムにおいて、公募により採択、遂行された各開発課題は、平成26年度末および27年度末に終了し、実用化等、次の段階に進んでおりますが、その成果概要と評価結果が、下記の文部科学省ホームページで公開されております。

 

http://www.mext.go.jp/a_menu/sonotaichiran/senryakusuisin/

http://www.mext.go.jp/a_menu/sonotaichiran/senryakusuisin/1311042.htm

http://www.mext.go.jp/a_menu/sonotaichiran/senryakusuisin/1367035.htm

http://www.mext.go.jp/a_menu/sonotaichiran/senryakusuisin/1381577.htm

 

 

第2回 NPO法人危機管理研究会のご紹介

当社の事業の柱のひとつであるX線検査装置は、
空港でよく目にされると思いますが、
社会の安全、安心を守るための重要なセキュリティツールのひとつです。

 

さらに、社会の安全、安心を確保するためには、
X線検査装置、監視カメラ等のような物理的ハードウェアのみならず、
ソフトウェア面での対応をどうするかということも非常に大切な点です。

 

今回ご紹介するNPO法人(特定非営利活動法人)危機管理研究会は、
主としてソフト的セキュリティの観点に立ち、

大地震、風水害等の自然災害、H1N1インフルエンザ、口蹄疫病等の感染症、
リーマンショック、ギリシャ財政危機等の金融破壊、原子力発電所、鉄道事故、
さらに地下鉄サリン事件、米国同時多発テロ、パリ同時多発テロ等のテロ、
さらには外交・安全保障といった多くの危機に対して、

危機管理関係従事者、危機管理問題に関心を持つ各分野の人々に、

定期的な講演会と意見交換をする場を提供、知識、ノウハウを相互に研鑚し、
市民の啓発につなげることを目的として、
平成23年3月に設立されました。

 

以来5年を経て、累計47回の月例講演会、10回の市民公開講座を開催し、
多数の参加者、関係者の支援、協力を得ながら、
社会・市民の安全、安心に寄与すべく、活動を続けております。

 

当社は、本活動の趣旨に賛同し、社会貢献活動の一環として、
NPO法人危機管理研究会を後援しております。

 

興味のある方は、ホームページ http://www.cmf-j.com を参照下さい。

電磁気学教科書のご紹介

ホームページもオープン以来1ヶ月余が過ぎました。
そろそろコラムの話題も掲載していきたいと思います。

当社の事業の柱のひとつである加速器メンテナンスの基盤となる技術は、
原子核物理、機械工学、電気工学、放射線取扱い、
真空、電源、制御
等多岐にわたりますが、
最も重要な技術のひとつは電磁気です。

 

電子加速器、陽子加速器、X線発生装置、中性子発生装置等の設計、
製作の根幹となる技術は、
18世紀以降に急速に進展した電磁気学です。

 

クーロン,アンペール,オーム,ファラデー,ガウス,マックスウェル等の
巨人の電磁気学への貢献により、
我々現代人は電磁気に囲まれた豊かな生活を享受できるようになりました。

 

電磁気を学ぶ学生や既に大学、研究所、企業で
加速器、X線、放射線を取り扱っている研究者、技術者にとって、
電磁気の教科書は数多ありますが、
今回ご紹介する教科書は、当社パートナーの山本昌志氏の講義ノート

http://www.yamamo10.jp/yamamoto/lecture/2007/p1/を参照下さい)です。

 

山本氏は、2003年から5年間、秋田工業高等専門学校で教鞭をとられ、
電磁気学の講義を担当されました。
その時にお使いになった講義ノート(計15回)は、
初心者向けに書かれています。

 

また、初めの5回分に、電磁気学の基本となるベクトル解析について、
丁寧に講義されている点が、これまでの教科書にはなかった大きな特徴です。

早くどこかの出版社で刊行して頂くことを願っておりますが、
電磁気学に興味のある方は、是非一度アクセスしてみて下さい。

 

山本昌志氏の講義ノート
http://www.yamamo10.jp/yamamoto/lecture/2007/p1/